身体表現性障害は、DSM-Ⅲ以降の呼び名です。それ以前は「転換ヒステリー」と呼ばれていました。身体表現性障害は、心身に関わる苦痛を訴えるものの、医学的検査による生理学的な原因が見つからず、心身の病気として説明ができない病の総称です。
本人も気づいていないストレス、不安や葛藤が身体の症状となって現われるとされています。
DSM-IV-TRでは身体表現性障害は、
- 身体化障害
- 転換性障害
- 疼痛性障害
- 心気症
- 身体醜形障害
の5つに分類しています。
しかし、これらは臨床上の便宜から分類されているのであって、原因や病気の進行が共通しているわけではありません。
身体表現性障害であると診断するに当たっては、その前に身体的疾患の有無を確認することが大切です。
つまり、各種の検査を行い脳や身体の病気でないとはっきりしてから、身体表現性障害であると診断を下すことが大事なのです。
治療法においては心理療法が重要な位置を占めてきます。認知行動療法により、症状の原因となっている不安や恐怖が何であるかを突きとめます。そして、どのように対処していけばよいかを考えていくのです。
身体化障害 (somatization disorder)
数々の身体的症状が数年に渡り反復維持されます。自然に治る事はまれです。
症状は主に、頭痛、腰痛、腹痛、発汗、疲労感、アレルギーなどがあります。これらは、疼痛症状、胃腸症状、偽神経学的症状などに分類されます。
発症率は女性が男性の20倍となっています。
身体症状は、一つのコミュニケーション手段と考えられます。つまり、助けて欲しい、気にかけて欲しいという無意識の欲求を身体症状として表現しているのです。そのため患者の訴えが誇張されていたり、一貫したものでない場合もあります。
転換性障害 (conversion disorder)
本来「転換」という言葉はS.フロイトが使ったものです。彼は抑圧された本能のエネルギーが不安や心理的葛藤となり、それらが身体症状に転換されると考えました。
生物学的原因がみられず、感覚の異常、運動の異常を訴えるものです。身体的には何の問題もないのに、運動筋肉や感覚に機能障害が現れます。
心理的葛藤や欲求に関連して生じるといわれています。発症率は女性が男性の2倍となります。
症状には、視力の喪失、失声、感覚麻痺、皮膚のうずき(ひりひり、ちくちく)、立つことや歩行ができなくなる、などがあります。さらに想像妊娠などの症状も転換性障害の一つです。
心気症 (hypochondriasis)
ちょっとした不調から、自分が重大な病気にかかっているのではないかという不安にかられる障害です。この状態が6カ月以上継続したものを心気症といいます。診察や検査で異常がみられなくても「医者が病名を隠しているのでは?」などの妄想的な自己診断を下します。その結果、自分の納得のいく病名に辿り着くまで、いくつもの病院を渡り歩くケースもあります。
心気症の人は、意識が自分の身体や健康に集中しています。病気や死についての不安が異常なまでに強い傾向にあるのです。そして、それがまた強く意識されることで、症状が固定化されていきます。
発症率は男女で差はありません。
治療には森田療法などの心理療法が有効です。しかし、本人は自分が心気症ではなく身体が悪いと思い込んでいるため、治療を受けさせるためには配慮が必要となります。
身体醜形障害 (body dysmorphic disorder)
自分のルックスに欠陥があると過剰に思い込んでしまいます。顔のしわ、毛深さ、眉毛の形、低身長などに異常があると訴えます。それらへ執着しすぎて抑うつ的になり、対人接触を回避するようになることもあります。
繰り返し整形手術を受ける人もいますが、悩みが解消されることは殆どありません。青年期から成人初期の発症が多く、男女差はありません。
疼痛性障害 (pain disorder)
痛みの強さを説明する医学的原因が存在しないにも関わらず、痛みを訴え続けるものです。
痛みの発症や軽重、持続は心理学的要因が原因であると推測されます。痛みの訴えにより利益(周囲から親切にしてもらえる、困難な活動を回避できる、など)を得る場合が多いと考えられています。
発症率に男女差はありません。