芸術療法 (art therapy)

 非言語的な自己表現によって問題の症状の背後にある心理的原因を発散させる心理療法をさします。

従来の心理療法との違い

 芸術療法は言語に寄らず自己表現をとおして心理的原因を解放します。
 従来のカウンセリングの多くはクライエントの言語的接触によって成立します。その過程で、クライエントは、自己の内面に存在する問題性に気づきます。それによって症状や問題とされる行動が変わるといわれています。つまり、言葉によって原因を掘り下げていく過程そのものが自己洞察を促すための治療となるのです。
 しかし、芸術療法は、人間が生来もっている、内面にあるものを何らかの形で表現したいという欲求を基礎にした心理療法です。表現することによって心理的原因を改善しようとします。
 何かを作ったり、絵で表現することは、不適応状態を誘発している要因が発散されると考えられます。内面に蓄積された余剰なエネルギーが解放される(例えば「昇華」によって)のです。カタルシスなどのように心的緊張をときほぐす働きが得られます。

言語化しにくい内面の問題に気づくための手立て

 芸術療法は、治療技法としてばかりではなく、有効な診断法としての側面をもっています。
 言語表現が十分にできないクライエントの本質的な問題を明確化していくことが、芸術療法ならば可能です。
 心理的問題の所在を探り、さらにそこに気づいていくという過程をとることが困難な場合には以下の例が挙げられます。

  • 十分な表現のできない幼児や児童が相手の場合
  • 大人でも言語による対人接触が不得手である場合

 通常は意識化に抑圧されている心的現実が、芸術療法をとおして表出されることさえあるとされます。芸術を通じたコミュニケーションは、言語的なそれ以上に有益な診断・治療方法となりうるのです。

芸術療法の目的

 芸術療法に比較的共通している目的として以下のことが挙げられます。

  • クライエントと治療者の感情交流を促進する
  • クライエントの内面に存在するけれど言語的表現が困難な問題を明確にする
  • クライエントの関心を自らの内面に向け、洞察を促す
  • 問題意識または病識を醸成する

芸術療法の適用

 芸術療法は、クライエントの状態に同調したうえで適用されなければなりません。
 通常、診断的な利用の場合、何らかの課題や制限的要素を含む方が適しています。
 治療技法として用いようとする場合は、自由な反応を引き出しやすい技法が選択されます。自由度が高い技法ほど制約なく深い自己表現が可能なためです。
 しかし、自我機能の脆弱なクライエントに施すには注意が必要です。元来虚弱な防衛がさらに弱体化し、危険な状態を招くことがあるためです。
 芸術療法の適応可能範囲には以下の症状が挙げられます。

  • 神経症
  • 心因反応
  • 心身症
  • うつ病
  • 寛解期における統合失調症などの精神医学的症状
  • 児童・生徒の不適応行動

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