G.S.ホール (Granville Stanley Hall)

 アメリカの心理学者で、初めて体系的な形で青年期に関してまとめた心理学書『青年期―その心理学およびその生理学、人類学、社会学、性、犯罪、宗教、教育との関係』を著した人物です。
 質問紙法をはじめて大規模に利用した人物でもあります。この方法は現在でも有力な研究法であり、その後の青年心理学に大きな影響を残したといえます。
 ホールは青年期の現象を、

  • 身長や体重の急激な増加と言う身体面での成長の問題
  • 身体諸器官とくに性的な成熟の問題
  • 感情生活知的発達
  • 社会的関係の変化など

 などの様々な角度から解釈しようとしました。
 そして以上の諸問題を扱う中で青年の教育に役立つ知見を追求しようとしました。
 現在でも有力な研究法として用いられている
 理論的な面では、進化論の思想を独特な形で拡張した心理学な反復説を主張しました。

反復説 (recapitulation theory)

 反復説とは元々は生物学においてE.ヘッケルが提唱した概念で「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方です。もう少し噛み砕いた説明をすると、反復説とは、胎内において動物の発生の過程は、その動物の進化の過程を繰り返す形で行われるという考え方です。人間などの胎児は胎内で、哺乳類より原始的な魚類の形状などを経て哺乳類の形などがその例です。
 ホールはこの考え方を心理学に当てはめて考えたのです。例えば、子どもの遊びは、人類の祖先が経験した活動を再現復元しているのだと定義しています。
 ホールは人間の心は進化の途上にあるものとみなければならないと考えました。つまり、人間の心を、すでに完成したもので、それ以上進化することのないものだとするのは誤りだというのです。
 ホールの反復説は、社会文化的条件の違いを超えて人間の発達過程には普遍的なパターンが存在するという発達論です。
 この立場はホールの弟子にあたるA.L.ゲゼルの成熟優位説に影響したと考えられます。
 同時に、後にホールの青年期の捉え方が文化人類学者や社会学者たちから批判される原因となりました。ホールの反復説は実証的根拠に乏しい考えであるとして現在では否定されています。

疾風怒濤の時代 (Sturm und Drang)

 ホールは、不安と動揺が特徴的な青年期を、疾風怒濤の時代であると表現しました。
 反復説のような理論的立場に立ってホールは青年期を1つの新たな誕生と意義づけました。
 反復説によれば、子どもの時代は人類の進化における古い時代の特徴を体現しているとされます。
 一方で、青年期に発現する特質は人類進化のはるかに新しい時期のものに対応し、発達のペースは急速に早くなり躍進的となります。
 これは人類が古代において、より高い次元への進化に到達したときに体験した「疾風怒濤の時代」と思わせるものがあります。
 しかし、この考え方に否定的な意見もあります。なぜなら、深刻な不安と動揺は少数の若者によって経験されているに過ぎないからです。少数の若者はストレスに満ち混乱した青年期を体験するかもしれません。しかし、青年の多くは比較的よく周囲の状況に適応しているといえます

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