精神遅滞 (mental retardation)

 世界保健機構(WHO)では、「知的機能の水準の遅れ、そしてそのための通常の社会環境での日常的な要求に適応する能力が乏しい」と定義しています。
 アメリカ精神遅延学会(AAMR)では、「知的機能および適応行動の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害で、18歳までに生じる」としています。

診断基準

 精神遅滞は以下の3つを満たすものです。

IQがおよそ70以下

 幼児や非協力的など検査ができない場合は明らかに平均以下の機能であるという臨床的判断による

社会的技能、日常生活技能などの適応行動が年齢にくらべて低い

 以下の2つ以上の領域で障害が認められるもの
 コミュニケーション・身辺自立・家庭生活・社会対人技能・地域資源の活用・自己管理などの領域から2つ以上の領域で障害が認められます。

18歳未満に発症する

区分

軽度

  • IQ50~70
  • 成人になったときに到達できる精神年齢が9歳~12歳の範囲
  • 学習到達度が健常児より徐々に遅れ、大半は抽象的な思考が必要になってくる小学校高学年で脱落する
  • 作業能力や社会性の習得によって就職し経済的に自立することは可能

中等度 

  • IQ35~50
  • 成人になったときに到達できる精神年齢が6歳~9歳の範囲
  • 幼児期から発達の遅れに気づくことができる
  • 状況の変化に素早く順応することは苦手であるが自分の身辺のことは自分で行えるようになる
  • 就労など社会生活を営むにはさまざまなレベルでの介助が必要で経済的な自立は困難

重度

  • IQ20~35
  • 成人になったときに到達できる精神年齢が3歳~6歳の範囲
  • コミュニケーションをとることはある程度可能であるが身の回りのことにも介助が必要

最重度

  • IQ20以下
  • 成人になったときに到達できる精神年齢が3歳に達しない
  • 言語がほとんどなく意志の疎通が困難
  • 排泄も自立せず、身体の移動にも障害があるため介助を必要とする

ケア

 知的障害に対するケアは、行政などの公的サービスの利用が中心となります。
 幼少期には、療育によって発達を促します。
 育児支援として、レスパイト(息抜き)というものがあり、これは障害者を一時的に施設や行政サービスなどに預けることです。介護疲れを防いだり、介護者も含めた家族全体のQOLを高める上で重要です。
 成長に伴って就学や就労という大きな問題が生じます。就学の選択肢の少なさ・就労の門戸の狭さは我が国の社会政策の大きな課題です。公的サービスが十分に周知されていないため利用されずにいる場合も多いのも問題です。
 知的障害は、しばしば身体の障害を併せ持ちます。特に重度の知的障害の場合、身体の障害を併せ持つことが殆どです。能力の制限からストレスなどを十分に表現できないため、情緒不安定や身体症状、問題行動(自傷)として表れることもしばしばあります。こうした場合、向精神薬を用いることが有効な場合もあります。
 知的障害の場合、適応行動などの目立つ特徴に対するケアが優先され、心の援助が後手に回るのが現状です。知的障害の特性に伴う問題に対し、心理面接などのサポートの大切さも指摘されています。幼いころから本人が漠然と感じている“ひけめ”が日々の中で劣等感に発展してしまうことを防ぐ方法には、本人らしい在り方をともに模索する援助が大きな意味を持つ場合があります。

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