臨床心理学とは? (What is clinical psychology?)

 臨床心理学とは、心の健康をテーマとした心理学の一分野です。臨床心理学が目的としているのは、心理的な問題を抱えている人の理解や回復を援助することです。

 人間は悩みや苦しみなどの負の感情を避けようとします。けれど、それらから逃げることは必ずしも不幸から脱することにつながるとは限りません。
 例えば、人と会うことが苦しいから外に出られない人がいたとします。その人にとって外に出ないことは対人恐怖を減らすことにはなりますが、外に出られないこと自体はひきこもりという好ましくない状態です。心の悩みには大小様々なものがありますが、悩みの大小を決めるのは本人であって、他人ではありません。
 悩みが膨らみすぎて処理しきれなくなった場合、心を病んでしまうことがあります。心の病気には比較的早く回復するものから、回復に時間がかかるものがあります。そのあたりは身体の病気と同じです。

臨床心理学での治療の流れ

 臨床心理学では、不安や緊張や葛藤、または症状や問題行動を、観察・理解したり、アプローチしたりしていきます。臨床心理学では、観察・理解の手法はアセスメントとよばれ、アプローチがカウンセリングや心理療法といわれるものとなります。

臨床心理学と精神医学の違い

 臨床心理学とよく混同されるものとして、精神医学があります。臨床心理学と精神医学の主な違いとして、立っている観点の違いがあげられます。臨床心理学では心の病を心理学的に診ていくのに対して、精神医学では医学的に心の病を診ていきます。
 精神医学では心の病へのアプローチとして薬物療法などの医学的療法で対処していきます。この医学というのは基本的には生物学や生理学が基礎となっています。実際、今の精神医学では、脳科学、遺伝学、生化学が中心となっています。
臨床心理学と精神医学は、互いに相反するものではありません。臨床心理学はストレスや信念や感情といった心理的要因への対処を得意とし、精神医学は、脳内物質の分泌の異常などの医学的要因への対処を得意とします。この二つの学問は互いを補い合えるものなのです。

臨床心理学の始まり

 臨床心理学の歴史と大きく関係してくるのが、精神医学の歴史です。人の心を精神医学という学問として扱い、さらに科学として成立したのは19世紀のことです。
 当時の精神医学では、精神分裂病(今でいう統合失調症)などの、重い心の病が注目されていました。同時に生物学的な要因だけでなく、心理的要因が原因となって生じた障害にも焦点があてられるようになりました。
 心理的要因が原因となるものとして、当時ヒステリーと呼ばれていたものがあります。ヒステリーは例えば手足が動かなくなったり、声が出なくなったりと体への症状が現れます。これらの症状へ心理学を用いて迫ったのを始まりとして精神分析学へと発展しました。
 その後、精神分析から派生したり、あるいは精神分析の理論に異を唱える理論が現れるなどを経て臨床心理学は発展していきました。

臨床心理学発展の歴史

 臨床心理学の発展には心に関する様々な観点が関わっています。
 例えばフロイトの精神分析は催眠療法から発展したものです。しかし、フロイトの理論は実際に観察したり測定できない、もっと科学的な心理療法を確立すべきだという反論から行動療法のように自然科学がベースになっている心理療法が生まれました。また、精神分析も行動療法も人間がもつ成長や自己実現への傾向を無視しているという観点から人間性心理学やクライエント中心療法が生まれました。あるいは、これまでの心理療法は治療される個人に注目しすぎだ。そうではなく治療される個人が関わる人間関係に注目した方がいいという観点から家族療法やコミュニティ心理学が発展していきました。
 どの時代、どの心理療法に焦点を合わせるかによって、臨床心理学は見え方が変わってきます。そのために臨床心理学とは何かがわかりにくくなるのかもしれません。
 このように当初、臨床心理学では各学派が個々に活動していました。しかし、社会は次第に心理援助の専門活動としての機能を求めるようになります。こうした社会の要請に答えられるように、最近では、臨床心理学は一つの学問としてまとまっていく動きがみられます。

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