拠って立つ理論

「拠って立つ」とは、何かを根拠や立脚点として自らを立てるという意味を持つ言葉です。
 したがって「拠って立つ理論」とは、自らの行動や主張の根拠となる理論を意味します。
 臨床心理における拠って立つ理論とは、臨床活動を行う際に参照枠にする理論体系(精神分析や来談者中心療法など)を指します。
 臨床活動を行う場合、実践者は各自が拠り所とする理論モデルを基礎として、他のさまざまな援助活動のアイデアを加えたりして、独自のモデルを築いていきます。

拠って立つ理論の必要性

 臨床活動を行う場合、拠って立つ理論体系を持つ必要があります。
 拠って立つ理論を持つことで、自ら援助活動に確固とした根拠を持つことができるからです。拠って立つ理論を持たない場合、臨床活動を行う際に主観的な勘や経験だけに頼らざるをえなくなります。
 臨床活動において援助者が客観的に自分の援助行為が理にかなったものかを評価できることは重要です。また、どのように援助活動を行うべきか迷った際に、拠って立つ理論を持っていると、その理論を改め学び直すことで見えてくる道筋も存在します。
 更に、他者に責任を持つという意味でも、判断の根拠となる拠って立つ理論が必要です。例えば、勘や経験だけで援助対象に「上手くいきそうな気がするから大丈夫です」といっても説得力がありませんし無責任です。拠って立つ理論を持つことは、自らが行う援助方法にはどのような効果があるのかを援助対象に説明し理解を仰ぐのに重要です。

拠って立つ理論を持つにあたっての注意点

 心理臨床家は全ての理論に通じているわけではありません。また好みの問題はどうしても出てくるものです。
 どのような拠って立つ理論を持つかによって、援助対象と関わる際に援助対象が語る内容への重みづけや関心は変わってきます。心理療法の進め方も異なるでしょう。
 しかし、臨床心理学において多種多様な理論があることを、臨床心理学が正しい方法を持たないと結論づけてはいけません。むしろ唯一無二の理論がある方が危険なことと言いえます。人間すべてを説明できるような理論は現在の臨床心理学にはありません。また、将来においても新しい理論が提唱されてもそれが絶対的なものにはならないでしょう。時には自らが根拠とする理論の枠を越えて、援助対象を総合的な視点から理解していくことも援助活動では必要とされます。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする