ドラとはS.フロイトに精神分析を受けたヒステリーの若い女性の仮名です。
彼女の症例から、フロイトは転移の発見に至りました。
この症例は最初から最後までのセラピー記録が出版されています。故に精神分析学を学ぶ者にとっては教科書的存在でした。しかし、最近では精神分析研究者から批判の対象となっています。
ドラの症状
8歳で発作性呼吸困難が出現し、しばらく続きます。12歳で偏頭痛と神経性の咳が始まりますが、16歳頃偏頭痛は全快するも神経性の咳は持続します。その後失声、父と言い争った後の失神発作、不機嫌、倦怠、交際嫌い,自殺願望が示され、18歳でフロイトの治療を受けることになりました。
その原因にはドラを取り巻く両親や大人たちの不倫・欺瞞・道徳の退廃などの事情が関係していました。ドラの父親は『親友K氏の妻』と不倫していました。その不倫行為をK氏から容認してもらう代わりに、K氏がドラを性的に誘惑する行為を見逃しているという状況にありました。更にK氏の妻は、ドラのことを可愛がっていて親密な関係にあり、K氏の妻はドラに対して同性愛的な身体の密着などをしてくることもあったといいます。
しかし、大人たちは口裏を合わせていて不倫の事実を認めませんでした。そして、それはドラの妄想や想像に過ぎないとしました。そのような環境の中で、ドラの神経症の心身症状は悪化していきました。
フロイトの治療
フロイトは詳細にドラの夢分析をしました。しかし、この治療は最終的に失敗に終わっています。フロイトは彼女の症状が改善されていると考えていましたが、それは転移によって良くなっているように見えただけでした。後にドラは治療を断ってしまいます。
この症例でフロイトは転移の重要性に気づきます。この頃はまだ転移の概念が理論化されていませんでしたが、後にフロイトはこの治療の失敗は転移分析の甘さからきたものだと分析しています。
フロイトへの批判
このドラに対するフロイトの治療態度については強い批判があります。
その内容としては、
- フロイトはあまりに無神経かつ強引に、幼い少女の心に侵入しすぎた。
- もっと思春期の少女の繊細な気持ちを大切にすべきであった。
- 被害者であるドラの責任より、周囲の大人たちの誘惑的・欺瞞的な態度をもっと取り上げるべきだった。
などがあげられます。