心的現実 (psychic reality)

 その人にとっての心理的、体験的な現実を指します。
 人が感じ、信じ、思っていること、幻想は、現実的に起こっていない事柄でも心の中で起こったと判断がなされるならば心的現実になります。

心的現実の位置づけ

 心的現実の概念は、S.フロイトが精神分析を創始する初期に明らかにしたものです。その後の精神分析の発達にとって重要な概念となりました。
 心的現実は客観的事実や物理的現実と同じように、その人にとっては現実としての意味を持つだけではありません。一定の秩序を有しており、科学的探求を行うことのできる対象です。

心的現実と神経症

 フロイトは、神経症の病因を最初は幼児期に受けた成人からの性的誘惑という現実の出来事としました。しかし、やがてこれがクライエント自身の内的欲動にもとづく空想であると考えるようになります。この空想は、実際に生じた出来事と同じように心的現実であり、神経症の原因になりうると考えました。
 さらにフロイトは、無意識の精神過程では客観的現実が無視され、心的現実に置き換えられているとしました。
 精神病はもちろんのこと神経症においても、心的現実(無意識)が優位になっている状態であるとしました。精神分析療法では、クライエントの心的現実を了解していることが最も重要な課題となります。クライエントの不適切な心的現実を、適切な心的現実に修正することが精神分析療法における目的となるのです。

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