原始的防衛機制の一種です。
M.クラインによって提唱された概念です。
精神的苦痛から逃れるために、現実を否定し、なんでも自分の都合のよいように解釈することをさします。
発生のメカニズム
クラインは、抑うつポジションで抑うつ不安が克服されていくことが精神のさらなる健康的な発達をもたらすと考えました。しかし、このプロセスにおいて抑うつ不安のもたらす抑うつ感情や罪悪感から生じる心の痛みに個人が耐えきれない場合があります。そういった場合、その不安と苦痛を排除する防衛メカニズムを活性化させます。
その代表的なものが躁的防衛です。躁的防衛は、万能、とくに対象のコントロール、脱価値化(軽蔑感)、対象への勝利感、征服感といった心的活動や情緒から成り立っています。それにより、自分が内的な世界をもっていることや、その世界に自分が大切に思う対象が含まれているという自覚をせずに済みます。そして乳児はサディスティックで爽快な感情などの自分にとって都合のいい空想に浸ることになります。
しかし、躁的防衛が活発化すると傷ついた対象への償いの活動が滞るだけではなく、ますます悲惨な状況を呈するようになります。対象が恨みから報復を企ててくるのではという恐怖も高まり、それが抑うつをさらに深刻なものにします。同時にその否認のために躁的防衛にさらに頼るという悪循環が生じます。
理論の変遷
この概念を初めて提示したときにクラインは、躁的防衛と並列して、躁的メカニズム、躁的ポジションについて述べました。また同時に作動するものとして強迫的な防衛、メカニズム、ポジションも列記し、正常な発達過程で相互作用するものと考えていました。
また躁的防衛が抑うつ不安のみでなく、妄想性不安(迫害不安)に対しても作動していることも述べました。しかし、1940年以降には躁的ポジションや強迫ポジションという用語は放棄され、躁的防衛についてもその病理が明らかに示されるようになりました。