ラカン学派とは、フランスの精神科医、哲学者、精神分析家であるJ.ラカンの理論を中心とした学派です。
鏡像段階
ラカンの理論の中核となるのは鏡像段階の理論です。
生後6カ月から18カ月の子どもには、鏡の前に立ち自らの姿を見て歓喜するという行動が観察されます。ラカンはそこに自我の発生の秘密を見て取りました。
生後間もない乳児は、神経系が未発達で、自己の身体感覚も完全にバラバラな状態を生きています。しかし、鏡の中にいるのが自分であると認めるとき、乳児は初めて「ひとつのまとまりのある自己」を獲得します。
しかし、鏡の中の像は、自分の外の世界に存在しているという意味で、自分ではないもの(すなわち他者)にすぎません。それゆえ、その像によって自己の統一性を獲得することは、同時に、自分の中に他者を住まわせることを意味します。
象徴的秩序がつくられるまで
人間は生きていくために文明を作り上げました。これは言い換えれば環境に秩序をもたらすということです。ラカンはこの秩序を象徴的秩序と呼びます。
乳児は、想像界、象徴界、現実界を経て象徴的秩序を形成していきます。
想像界
想像界とはイメージに支配された世界です。想像界は孤独な世界ではなく、母親に依存した世界です。想像界に住んでいる乳児は、社会の規則を知りません。しかし、そのままでは社会生活に適応できないので、想像界に法が導入されます。法を導入するのは母子関係の中に割入ってくる父親です。ただし、この父親というのは、必ずしも現実の父親とは限りません。もし片親などで父親がいなくとも、父親的なもの(要するに父性的なもの)によって導入されるのです。
象徴界
象徴界とは、想像界に秩序や法が導入された世界です。秩序や法の導入は、同時に言語の導入でもあります。
想像界では言語は必要ありませんでした。しかし、この世でコミュニケーションを成立させるためには、すべての人間が、すでに社会的に用いられている言語を習得する必要があります。自分勝手な言語は他者には通じません。よって、子どもはすでに用いられている言語を受け入れるほかありません。
法と言語が導入され、それまでの想像界に象徴的秩序がもたらされると、象徴界という世界が成立します。言語と法を教えられると、我々の心はそれまでの想像界から象徴界に移り住み、秩序に支えられて「主体」として存在するようになります。
現実界
現実界とは、言語によって象徴化することのできないものの世界です。象徴界では常に象徴化できないものが出現します。それが現実界です。精神病とは象徴界の機能が破綻してしまったために、想像界が言語の介在なしに現実界に触れてしまい、幻覚や妄想を形成することを余儀なくされてしまっている状態だと言えます。