移行対象 (transitional object)

 過渡対象ともいわれます。
 D.W.ウィニコットによって提唱されました。
 子どもが肌身はなさず持ち歩いている布切れ、人形、ぬいぐるみ、あるいは毛布や枕の隅っこなど、その子どもにとって特別な意味を持った無生物をさします。

移行対象が持つ意味

 移行対象は、「自分でない」所有物であり、母子合体の対象です。この対象のおかげで、乳児は母親との分離に突然直面しなくても済みます。母子の分離の中間領域であり、一種の錯覚です。
 移行対象の成立には、乳幼児の必要に応えてくれる母親の在り方が必要です。そのためには「ほどよい母親」が不可欠となります。ほどよい母親は、乳幼児の全能感に応え、それにある程度の現実的意味を与えてくれます。
 乳幼児は、内的世界における何でも満たしてくれる空想上の母親をあきらめ、外的世界にある現実の母親を受け入れられるようになる為、内的世界と外的世界とが共有している中間領域の世界で満足と不満足を経験します。
 内的世界と外的世界の移行が上手くいかなかった場合は、「本当の自己」は人格の奥深くにしまいこまれてしまいます。そして、外的世界に適応するための防衛的な「偽りの自己」が表面に出ることになります。
 中間領域の世界は、幼児の「遊び」の領域へと直結し、そして後に創造活動に繋がる文化領域の諸要素となります。
 移行対象の出現時期については多くの場合は生後4カ月から12カ月の頃と考えられますが、ウィニコットは明らかな時期を示していません。

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