老賢者は、C.G.ユングの提唱した元型の一つです。父親元型であり、経験の知恵や理性、そして堅実な判断によって特徴づけられる深い哲学者といえます。
男性の心の働きにおいては、アニマと老賢者は父と娘のような関係を持ちます。女性にとって老賢者は、アニムスの側面を持ちます。
老賢者の心像は、夢だけでなくアクティブ・イマジネーションと呼ばれる能動的な想像によっても現れます。
老賢者のイメージ
老賢者のイメージとして以下の例が挙げられます。
- 無条件に自分を慈しんでくれるのではなく、公平で厳格な態度で接する
- 悪いことをすれば厳しく罰してくる
- 正しい道へ自分を導いてくれようとする
- おとぎ話の主人公が困り果てたときに現われ、助言や忠告を与えてくれる人物のイメージ
物語における老賢者
物語においてこの元型は、年上の父親のようなタイプとして描写されます。そして、神秘的な方法により個人を生かす知恵や世界を救う方法を教え登場人物を導きます。それにより、物語の読み手には老賢者が登場人物たちの師であるかのような印象を与えます。
老賢者は、時折ぼんやりとした人物であったり、静観的な人物であったりもします。
また老賢者は異文化や別の国、異なる時間からアドバイスを与えることがあり、異質な存在に見える場合もあります。別のケースでは、中心と外界の間の周縁に立つ存在(liminal being)である場合もあります。この場合は半分しか人間でないこともありえます。
中世の騎士道物語や現代のファンタジー物語では、老賢者は魔法使いとして登場する場合もあります。あるいは、彼らは隠者のような存在として登場するかもしれません。このタイプのキャラクターと出会うことは、騎士や英雄にとって重要な意味を持ちます。物語において、騎士や英雄の成長が認められるために老賢者の役目を負ったキャラクターは殺害されたり、他の方法で物語から離脱したります。
老賢者の特徴
老賢者の特徴として次の3つが挙げられます。
まず、老賢者はマナ人格です。マナ人格とは、超自然的な力を備えた人格のことで、成長と活力の根源的なシンボルです。
次に、老賢者は精神や意味を与える、卓越した師や教師といった魂の導き手を象徴しています。
最後に、老賢者は自己の象徴表現という観点からの位置づけにあります。自己とはユングが提唱した元型の一つです。河合隼雄は「自己も人格化されることがあり、この時は超人間的な性格を持った姿をとる。つまり、男性にとっては老賢者、女性においては思考の女神の姿をとって夢に現れる」と述べています。