自己愛性パーソナリティ障害 (narcissistic personality disorder)

 自己愛性パーソナリティ障害とは、B群パーソナリティ障害の1つで、自己の誇大感、他者の評価に対する過敏さ、他人に対する共感性のなさを特徴とします。
 自己愛性パーソナリティ障害には、尊大・傲慢な態度を取るタイプと、控えめ・消極的な態度を取るタイプの2つがあります。どちらのタイプも自分は特別な存在であり、賞賛されるべきであるという強い意識を持っています。表に出る態度は対照的ですが、両者ともに心の奥底にあるのは強い劣等感です。万能で自身に満ち溢れた理想の自分と、無能で自身のない現実の自分とのギャップに悩んでいるのです。

DSM-Ⅳ-TRでの診断項目

 以下の9つの基準のうち、5つ以上が当てはまる。
(1)自己の重要性に関する誇大な感覚を持ち、自分を特別重要な人間だと考えている。
(2)限りない成功、権力、才気、美しさ、理想的な愛の空想に取りつかれている。
(3)自分は特別であって独特で、同じように特別な人たちや地位の高い人達にしか理解されないし、そういう人たちと関係があるべきと信じている。
(4)過度な賞賛を求める。
(5)特権意識を持っており、自分には特別に有利なはからいがあって当然だと期待する。
(6)自分の目的を果たすために、いいように他人を利用する。
(7)共感性が欠如しており、他人の感情や欲求が理解できず、認めようともしない。
(8)しばしば嫉妬する。または、他人が自分に嫉妬していると思い込んでいる。
(9)尊大で傲慢な行動や態度が見られる。

原因と背景

 自己愛性パーソナリティ障害の原因を説明する上で、今日でも強い影響を与えているのはH.コフートの理論です。
 コフートによれば、自己愛性パーソナリティ障害は幼い頃に自己愛(自分を愛する能力)をきちんと育てられなかったために生じるといいます。自己愛の成長が幼いままで止まっていると、人は自分を万能の存在であると思い込み、まるで神のようにふるまいます。
 自己愛の成長が妨げられる環境要因としては、「過大評価」「親の溺愛」「一人っ子」などがあります。こうした環境要因は自分を世界の中心であると思い込みを生じさせると考えられます。
 近年、自己愛性パーソナリティ障害は非常に目立つようになったタイプの1つです。少子化や過保護な養育、教育の影響が大きいことは否定できません。

対応・サポートの方法

 自己愛性パーソナリティ障害の人は常に賞賛を求めており、心から相手を思って注意や、叱責しても聞き入れようとしません。
 そのため、自己愛性パーソナリティ障害の人と接する場合は、傲慢・尊大あるいは控えめ・消極的などのマイナスの面に目を向けず、プラスの面に目を向けることです。まずは、彼らの求める賞賛を与えることによって、彼らはその相手に対して「この人は自分のことをわかっている」という評価をします。そうなると自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分を賞賛してくれる人の意見に重きを置くようになっていきます。自己愛性パーソナリティ障害の人から十分な信頼を得られる状態になったら、彼らは多少自分の思惑とは違う意見を言われても受け入れられるようになります。
 自己愛性パーソナリティ障害の人と付き合う際は、人としての義理や道徳心よりも、彼らの不安や嫉妬、功名心を刺激することが有効です。
 ただし、自己愛性パーソナリティ障害の人と付き合う際は、彼らの手足にならないよう気を付ける必要があります。自己愛性パーソナリティ障害の人は、他人を道具程度にしか考えていないため、彼らに親切にしても感謝などされません。自己愛性パーソナリティ障害の人が身近にいる場合、手足になることをしっかりと断ることが重要です。彼らに振り回されていては、振り回される側が病気になりかねません。

治療・克服の方法

 自己愛性パーソナリティ障害の治療は、自分が非力で平凡な人間であることに気付かせることから始まります。ただし、その際に気付きを急かしてはいけません。いきなり彼らを非力で平凡な人間であると指摘しても、自分の才能が発揮できないのは社会や環境が悪いからだとしか思いません。
 また、自己愛性パーソナリティの傾向を、もっとバランスのよいパーソナリティへ成熟させることも重要です。
 成熟した自己愛性パーソナリティを持つ人は、自分に自信があり、強い自尊心を持っています。目標に向かって努力をし、しかしそれをひけらかしたりせず、過度に尊大に振る舞ったり傲慢になることはありません。
 自己愛性パーソナリティ障害の人と、成熟した自己愛性パーソナリティの傾向を持つ人の違いは、自分しか見えていないか、それとも他人を視野に入れているかです。
 単なる自己愛性パーソナリティ障害の場合は、自分を世界の中心に据えて物事を考えます。そのため他人を道具としか思えないのです。また、彼らは短いスパンでしか物事を考えることしかできず、一瞬一瞬の満足・不満足に囚われてしまいます。
 しかし一方で、成熟した自己愛性パーソナリティを傾向を持つ人は、自分がどう思うかだけではなく、相手がどう思うかも同時に考えることができます。また、長期的な損得を計算することもでき、目の前の満足を我慢しても、あとでもっと大きな満足を得られるならそちらを選択します。

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