パーソナリティ障害 (personality disorders)

 パーソナリティ障害とは、パーソナリティ(思考・感情・行動などのパターン)が著しく偏っていて、家庭生活や社会生活、職業生活に支障を来たした状態です。
 パーソナリティ障害の場合、その偏りのせいで自分自身や周りの人間が悩みを抱えています。

診断基準

 DSM-IV-TRでのパーソナリティ障害全般の診断基準は以下のものです。
A.その人の属する文化から期待されるものよりいちじるしく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
 (1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
 (2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
 (3)対人関係機能
 (4)衝動の制御
B.その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
C.その維持的様式が、臨床的にいちじるしい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.その様式は安定し、長期間つづいており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
E.その持続的様式は、他の精神疾患の現れ、またはその結果では上手く説明されない。
F.その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。

パーソナリティ障害にかかる原因

 以下の5つの要因が、相互に影響しあいパーソナリティ障害になると考えられます。

生まれ持った気質

 個人が発達していく中での親子関係はパーソナリティ形成に影響を与える要因の1つです。親子関係の基盤となるのが持って生まれた気質です。生後間もない乳児であっても、大人しい子もいれば活発な子もいますし、神経質な子もいれば無頓着な子もいます。こうした気質の違いが親子関係の形成において悪影響を与えることによってパーソナリティ障害の基盤となる場合があります。

育てられ方の影響

 物心がつく前に、親(養育者)にどうのように育てられたかはパーソナリティの形成に大きな影響を与えます。例えば、虐待や育児放棄などによって親との愛着関係や、主体性を形成しそこなった場合、パーソナリティは不安定になりやすく、それが大人になったときまで尾を引く場合があります。

遺伝子の関与

 パーソナリティ障害の関連遺伝子がいくつかあり、それを受け継ぐと、パーソナリティ障害を発症しやすくなるのではないかということが指摘されています。
 ただし、親がパーソナリティ障害だからといって、その子どもが必ずパーソナリティ障害になるというほど強い因果関係はありません。

人間関係や生活環境

 幼いときにどう育てられたかだけでなく、その後の生活環境や人間関係も、パーソナリティ障害の発症と関連がある場合がすくなくありません。学校や職場で人間関係や成績でつまずくと大きなストレスを抱えることになります。ストレスにより脳内の神経伝達物質のバランスが崩れパーソナリティ障害を発症しやすくなります。

社会状況や時代情勢

 周囲の人々がもつ価値観やものの考え方によってパーソナリティの捉え方は大きく変わってきます。例えば、昔は真面目な性格が素晴らしいこととされてきましたが、昨今では真面目さは柔軟性がないとも解釈されます。時代の価値観が変わることでパーソナリティに関する評価も変わるのです。そのため、時代背景や社会状況が特定の種類のパーソナリティ障害を生みやすくしているとも言えます。

原因探しよりも重要なこと

 原因が特定できても、それを取り除けるとは限りません。例えば、幼少期の育てられ方に問題があったとしても、過去にさかのぼって育てなおすわけにはいきませんし、気質や遺伝的な要因は変えようがありません。
 患者や患者に関わる人が、いま現実の問題にうまく対応する方法を見つけること方が原因探しよりも重要である点に注意しなければなりません。

パーソナリティ障害の種類

 DSM-Ⅳ-TRでは、パーソナリティ障害は「A群」「B群」「C群」の3つのグループに分類されます。

A群パーソナリティ障害

 オッド・タイプともいわれます。
 奇妙、風変りな信念や習慣を特徴とするグループです。
 これらの症状は、統合失調症のそれほど深刻でない症状との間に類似性があるといわれています。
 心理療法では、心理・社会的アプローチが不可欠となることが多く、精神科医やソーシャルワーカーとの共同作業が必要となります。
 A群パーソナリティ障害は更に以下のタイプに分類されます。

  • 妄想性パーソナリティ障害
  • 失調症質パーソナリティ障害
  • シゾイドパーソナリティ障害

B群パーソナリティ障害

 ドラマチック・タイプともいわれます。
 情緒や感情の現れ方が適正でなかったり、劇的・過度なグループです。これらの症状は周囲の人々の関係のなかで問題化していきます。
 B群パーソナリティ障害は更に以下のタイプに分類されます。

  • 境界性パーソナリティ障害
  • 自己愛性パーソナリティ障害
  • 演技性パーソナリティ障害
  • 反社会性パーソナリティ障害

C群パーソナリティ障害

 アンクシャス・タイプともいわれます。
 対人関係の取り方において自信のなさ、不安が目立つグループです。
 これらの症状の一部は、対人恐怖、甘え、ワーカホリックなどと関連があります。
 C群パーソナリティ障害の場合、依存性人格障害も含めて、精神分析から、分析心理学、カウンセリング、論理療法、認知行動療法、家族療法まで、神経症モデルにもとづいて発達してきたほぼすべての心理療法がそのまま適応できると考えられています。
 C群パーソナリティ障害は更に以下のタイプに分類されます。

  • 回避性パーソナリティ障害
  • 依存性パーソナリティ障害
  • 強迫性パーソナリティ障害

パーソナリティ障害の治療全般にいえること

 パーソナリティ障害を治療しようとする場合、まず患者が自分のパーソナリティの特性を自覚するところから始まり、そして治療計画を立てます。その場合で重要なことは患者自身が「治したい」「治そう」という意志を持つことです。医師や臨床心理士はサポート役でしかないのです。
 また、治療は患者の元々のパーソナリティを根本的に変化させることではありません。社会スキルを習得させるなどして、生来のパーソナリティを有効に生かせるように進めることが重要です。

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