妄想性パーソナリティ障害(Paranoid Personality Disorder)

 妄想性パーソナリティ障害とは、A群パーソナリティ障害の1つで、他人に対する極端に強い猜疑心を特徴とします。
 他人の行動の動機を悪意あるものだと解釈し、隠れた意味や意図を探し求めます。
 その思考には柔軟性がなく、現実判断は歪んでいます。屈辱や恨みを経験しやすく、自分は常に犠牲者であるとみなし、自分の落ち度や問題に目を向けることが極端に苦手です。

DSM-Ⅳ-TRでの診断項目

 以下の7つの基準のうち、4つ以上が当てはまる。
(1)十分な根拠がないにもかかわらず、他人が自分を利用したり危害を加えようとしていると疑いを持つ。
(2)友人または仲間の誠実さを不当に疑い、そればかりを考えている。
(3)情報を漏らすと自分が不利益を被るのではないかと思い、他人に秘密を打ち明けようとしない。
(4)相手の言葉や出来事の中に、自分をけなしたり、脅かすような意味があると思い込む。
(5)侮辱されたり、傷つけられると、深く根に持ち、恨み続ける。
(6)自分の性格や評判に対して勝手に人から不当に攻撃されていると感じ取り、怒ったり、逆襲したりする。
(7)配偶者や恋人が浮気をしているのではないかと、繰り返し根拠のない疑惑を持つ。

原因と背景

 妄想性パーソナリティ障害の人の猜疑心の強さは、幼い頃のネガティブな経験に根ざしていることが多々あります。
 成育歴を調べると、このタイプの人の親は、すぐに非難したり責めたてる親である場合が多いといわれます。そうした親の態度は兄弟にまで及び、家庭全体で家族のメンバーのアラを探そうとする傾向へとつながります。このような家庭で育っては、人を信じる心や安心感を育むことは不可能でしょう。その結果、対人関係において、極度に人を疑い、他人の行動を悪意あるものであると解釈するパーソナリティが形成されていくのです。

対応・サポートの方法

 妄想性パーソナリティ障害の人に同僚、友人、援助者として関わる場合、距離と中立を保ち続けることが重要です。気持ちを入れすぎたり、親密になりすぎてはいけません。このタイプの人は、親しく成りすぎると過度に相手を理想化し、過大なまでに期待を膨らませるようになります。そうなると、自分の思いや考えを押し付けてくるようになります。しかし、少しでもそれを拒むと、このタイプの人は相手から裏切られたと思い、相手をどうにか支配しようと躍起になります。ひどい場合には脅迫や攻撃行動をとる場合もあります。
 また、一貫した態度で接することも重要です。このタイプの人は約束や決まりごとに対して強いこだわりを持ちます。約束したことや一貫性にとても敏感です。人間自体が信頼できないため、法や規則を重要視するのです。相手が口にしたことを驚くほどよく覚えており、以前に口にしたことと矛盾があればすぐに気づいてしまいます。そのため、このタイプの人と関わることになったなら、約束や決め事をしっかり守る必要があります。不用意に甘い言葉を掛けたり、できもしない口約束をするのは厳禁です。

治療・克服の方法

 まず、対人関係などの社会的な技能の向上が求められます。会話の仕方や人前でのふるまい方を学び、少しでも改善できれば、相手とのコミュニケーションもスムーズになっていきます。
 また、短所の改善だけでなく、長所を生かしていくことも重要です。このタイプの人の疑り深さは、見方を変えれば繊細で用心深い性格ともいえます。軽はずみに行動したり、失言したりすることが少ないので役人や公務に携わるのに適しています。
 また、基本的に他人を信じず自分を信頼する傾向は、よく言えば自立心や反骨精神が旺盛であるともいえます。そのため、法律家や政治家として成功するケースも多いといいます。
 人間関係中で働く力学を読み取り、相手を操作する独特の勘も持っているので、管理職や、経営者やその参謀として優れた才覚を持つ人もいます。

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