演技性パーソナリティ障害とは、B群パーソナリティ障害の1つで、過度な情緒性と人の注意を引こうとする行動を特徴とします。
自分の外見や性的魅力に多大な関心を寄せ、他人を魅了しなければ自分は無価値であると考えます。他人の注目を引くためならば、自分を貶めることを平気でします。
演技性パーソナリティ障害の人にとっては他人の目、他人の評価こそが重大な関心事です。ただし彼らは生身の自分で勝負するほど自分に自信があるわけではありません。彼らは空想の中で幻の自分を作り上げ、それが現実の自分であるかのように他人に見せかけます。そのためなら嘘をつくことも辞しません。
DSM-Ⅳ-TRでの診断項目
以下の8つの基準のうち、5つ以上が当てはまる。
(1)自分が注目の的になっていない状況は楽しくない。
(2)他人との交流は、しばしば不適切なほど性的に誘惑的・挑発的な態度をとる。
(3)感情表現が浅く、変わりやすい。
(4)絶えず自分の身体的な魅力を強調して、人の関心を引こうとする。
(5)感情表現がオーバーなわりには内容が乏しい。
(6)芝居がかった態度や感情表現をする。例えば、感傷的に泣いてみせたり、ささいなことに大げさに喜んでみせる。
(7)周りの人や環境の影響を受けやすい。
(8)対人関係を実際以上に親密なものと思い込みなす。たいして親しくない人にもなれなれしく振る舞う。
原因と背景
演技性パーソナリティ障害の原因としては以下の要因などが考えられています。
養育と親子関係
精神分析が提示する理論によれば、演技性パーソナリティ障害の人は、母性的な愛情不足を経験していることが典型的であるとされます。得られなかった愛情を得ようとして、成長してからも他者からの注目を得ようとするのです。ただし、同じような体験をした全てが演技性パーソナリティ障害になるわけではありません。そのため、養育と親子関係以外にも演技性パーソナリティ障害になる要因はあると考えられます。
遺伝的要因
幼い頃に愛情不足を経験していても、演技性パーソナリティ障害になる人もいれば、ならない人もいます。そこには遺伝的要因の関与も少なくないことがわかっています。ただし、遺伝的な要因だけで演技性パーソナリティ障害になるわけではありません。養育や親子関係など環境的な要因と絡み合って演技性パーソナリティ障害は形成されると言えるでしょう。
行動の学習と外傷体験の要因
さらに演技性パーソナリティ障害の形成において重要な要因となりうるのは、身近なお手本です。つまり、演技性の傾向を持っている大人を真似ることで、演技性パーソナリティ障害が形成される可能性を持っているのです。
対応・サポートの方法
演技性パーソナリティ障害の人の接する場合、2つのパターンがあります。彼らの求める注目を与えるパターンと、彼らの嘘や演技に嫌気がさして彼らを遠ざけるパターンです。
演技性パーソナリティ障害の人が求める注目を当たるパターンで接してく場合は、彼らの嘘や演技に振り回されないことが重要です。彼らは自分の嘘や演技が相手の注目を引くのに有効であるとわかると、より一層、病的なパーソナリティの傾向を強化します。嘘や演技により、彼らがメリットや満足だけを得られるような状況にしないことが重要です。
ただし、その場合、単に演技性パーソナリティ障害の人を咎めても意味はありません。彼らの嘘や演技の裏に隠された真の意味やメッセージに注意を向け、健全な形で彼らを満たせるようにする必要があります。
治療・克服の方法
演技性パーソナリティ障害は、社会適応を妨げている偏った認知や行動を治していくことで、その特性を生かすことができます。
成熟した演技性パーソナリティの傾向を持つ人は、洗練され魅力的な振る舞いをしますが、過度に誘惑的になったり性的なものに走ることはありません。お世辞や賞賛を楽しみますが、過度にそれらに没頭することはありません。注目を浴びることを好みますが、それはきちんとした自己主張という形で表現されます。
このような成熟した演技性パーソナリティを形成するためには、注目や関心に貪欲になりすぎないように、自分を振り返る目を持つことが必要です。
演技性パーソナリティ障害の人は、過度の注目を浴びていないと欲求不満になりがちですが、まず自分がそういうパーソナリティの傾向を持っていることを自覚するところから成長は始まります。自分をアピールしたいという気持ちをコントロールできるようになったとき、もっと自分が魅力的になると悟るべきです。
また、外見だけではなく、中味を磨く必要もあります。外見は歳と共に衰えていくものですが、内面的なものは衰えることがありません。教養、趣味、家事などを楽しめるようになれば、よりバランスの良いパーソナリティへと成長していきます。