自己心理学 (self psychology)

 H.コフートとその仲間たちが自己愛や自己の研究を通して発展させた精神分析的心理学です。
 自己心理学は、自我心理学の流れに属します。コフート自身は、自我心理学が進化したものが自己心理学だと述べています。

S.フロイトとコフートの理論の違い

 フロイトの精神分析では、意識と無意識との、あるいは自我、超自我、エスの間の葛藤を明らかにすることが重要とされます。一方、自己心理学ではその人全体である自己を総括的に捉えることの方が重要であると考えます。
 また、対人関係について、フロイトの精神分析では人間が他人に依存し過ぎず、自律することが重要とされます。一方、自己心理学では、人間は孤立した存在ではなく、自己は他者との関係を抜きにして存在しえないと捉えます。そのため他者への依存も否定的にとらえません。
 さらに自己愛(ナルシズム)についても異なった見解をしています。フロイトは自己愛を否定的にとらえました。フロイトのいう自己愛とはリビドーが他者でなく自分に向かうことです。そうなると他者との関係が結べず社会的生活に支障を来たすと考えました。自己愛は自分のことだけを考えている自己愛は乳児期の一時的にだけ存在し、しだいに他人を愛する対象愛に移行すると考えました。一方、自己心理学では、自己愛を健全に発達させれば、他者と共存していくことができると考えます。コフートは自己愛には独立の発達経路があり、大人になっても価値観や自信、能力といった形で存在していくと主張しました。

自己愛パーソナリティ障害

 自己心理学では、それまで精神分析療法の対象外とされていた自己愛パーソナリティ障害に注目し、対象となりうると主張されます。そして、自己愛パーソナリティ障害は、転移の操作を通じて治療できることを示しました。
 自己愛パーソナリティ障害の治療では、患者を褒めたり共感を示すことで以前より成熟した自己愛を身につけられるようにします。これは、患者が投影した感情に対して治療者が感情を込めて返す逆転移です。この逆転移の利用により、さらに踏み込んだ治療ができるようになり、精神分析の世界は大きく変わりました。

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