共時性(シンクロニシティ)とは、C.G.ユングの提唱した概念です。
二つの出来事の意味ある符合のことで、狭義には内的イメージと外的世界における出来事の間にある一致のことをいいます。
研究を進める間にユングは共時性について以下のような様々な定義を提唱しました。
- 因果関係のないものを一体化させる原理
- 意味がある偶然の一致
- 因果関係のない類似
共時性は、因果関係によってつながれるかもしれない出来事同士が、意味によってもつながるかもしれないことを意味します。意味によってつながれる出来事は、因果関係での説明を必要としません。これは特定の事例での因果関係の原理を否定しますが、一般的な因果関係を否定しません。
共時性と無意味な偶然の違い
共時性と無意味な偶然の違いには、情緒的要因が挙げられます。因果的に説明できない共時性を前にして、人は存在が揺すぶられるような強烈な情動を体験します。それが治療的に働くこともあります。共時的現象を理解するには、物理的な大宇宙と人間という小宇宙との照応に心が開かれていることが必要です。
共時性という考えの発展
共時性はユングの体験した原理で、彼の元型や集合的無意識の概念に決定的な影響を与えました。共時性は、社会的、感情的、精神的、あるいはスピリチュアルな意味で人間の経験と歴史の全体の基礎を支配している力だとユングはいいます。
共時性という枠組みの出現は、デカルト的な考えから離脱するためには重要な概念です。このような考え方のシフトが、ユングの初期の研究に理論的な一貫性を持たせることには欠かせません。
エラノス講義でのユングによる共時性の解説では、彼の共時性の考えは発展しました。物理学者のアインシュタインとパウリとの論議の後、ユングは相対性理論と量子力学には共時性との類似があると感じました。
ウーヌス・ムンドゥス (Unus mundus)
ウーヌス・ムンドゥスとは、「一つの世界」を意味するラテン語で、世界の根幹にある統一現実を意味する概念です。
ユングは物理学者のパウリとともに元型の概念と共時性がウーヌス・ムンドゥスに関連との可能性を探りました。共時性は、ウーヌス・ムンドゥスを起源として生じているのではないかと考えたのです。
黄金のスカラベと共時性
ユングは著作において共時性の例として以下のような出来事を挙げています。
ユングの患者の中に、相当な努力をしたのにも関わらず治療な困難な女性がいました。
彼女は全てのことにおいて非常に分別を持っていました。非常に優れた教育を受けており、デカルト的な合理的な理性で現実を捉えていました。そのため、ユングの治療方針に知的に抵抗をすることもしばしばありみあした。
ユングは彼女の人間理解についての堅苦しさを解きほぐそうといくつもの試みを行います。ユングは彼女の合理性の殻を打ち破るには、予期せぬ非合理な出来事が必要だと考えていました。
ある日、ユングは窓を背にして女性と向かい合って話し合っていました。女性は前の晩に印象的な夢を見たと話します。夢の中で、何者かが金のスカラベを彼女に与えたといいます。
女性の話を聞いていると、ユングは背後の窓が何者かによって叩かれている音に気づきます。ユングは振り返ると、そこには部屋の中に入ってこようとする昆虫の姿を発見します。奇妙に思ったユングは、窓を開け昆虫を捕らえます。その昆虫は金緑色のスカラベでした。
ユングは女性に「あなたのスカラベはここにいます」と言いました。
この出来事により、女性の行き過ぎた合理主義は解きほぐされたといいます。その結果、女性は知的な抵抗をすることはなくなったといいます。