ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルはドイツのシュトゥットガルトに生まれた哲学者です。ドイツ観念論、ひいては近代哲学の完成者とされ、後世に絶大な影響を与えました。
著作には『精神現象学』『歴史哲学講義』『法の哲学』などがあります。
彼の後継者たちは、ヘーゲル哲学とキリスト教の融合を考えるヘーゲル右派と、神の存在を否定するヘーゲル左派とに分裂しました。
絶対精神
ヘーゲルが生きた時代のドイツでは教養小説が盛んに書かれていました。教養小説とは、主人公が様々な体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のことをいいます。このような小説は、各人の個性を発見し、能力を発揮するような自己実現が理想とされたその時代で人気でした。
それと同じように、物体の性質や対人関係、自我や社会の形成、芸術や宗教などすべての原理を知り尽くし初めて人間の精神は完成するとヘーゲルは考えました。このように全てを把握した精神は絶対精神と呼ばれます。そして、絶対精神を完成させるのには弁証法という過程が必要だと説きました。
弁証法
弁証法とは、対立する二つの問題の矛盾を、より高い次元で総合・統一して新たな結論を導き出す方法です。
弁証法では、まず「正(定立/テーゼ)」と「反(反定立/アンチテーゼ)」を想定します。次に、定立と反定立を解消する考えである「合(総合定立/ジンテーゼ)」を提唱します。定立と反定立の矛盾が解消される過程は止揚(アウフヘーベン)と呼ばれます。
例えば「安定した人生が幸せ」という考えを定立とします。それに対して「困難に立ち向かう人生が幸せ」という考えを反定立とします。弁証法を使うと、この二つの考え方を一方引いた目線で見て、「結局、何が幸せかは個人の主観である」という総合定立を生み出すことができます。
更に、導きだされた総合定立は新しい定立となり、また別の反定立を想定することで考えは深まっていきます。
ヘーゲルの哲学への批判
ヘーゲルの哲学は、人間があらゆる現実を遍歴しながら、そのすべての原理を取り込みながら成長するという絶対精神がすべてです。しかし、彼の下の世代からは多くの批判が沸き起こります。その批判は、ヘーゲル哲学は結局のところすべての精神の合理性に取り込もうとするものでしかない点に向けられています。ヘーゲルの批判者は、彼の哲学は人間の現実のすべてを弁証法という方法に取り込もうとしており、それはデカルトやスピノザのような合理主義への加担であると指摘しました。