フロイト

 フロイトはオーストリア生まれの精神科医だった人物です。神経症の治療から出発して精神分析の理論を生み出した彼は、人間の無意識の存在を明らかにしました。無意識という概念は後世の文化領域に多大な影響を与えました。
 著書には『夢判断』『精神分析入門』などがあります。

心の構造

 フロイトは精神分析を通じて無意識を含む、心の構造を明らかにしました。フロイトによれば、人の心は意識、前意識、無意識の3つからなるといいます。
 意識とは、本人に意識されている心的内容が存在している領域です。
 前意識とは、その時点では意識されていないけれど、注意を向ければ意識することが可能な心的内容が存在している領域をいいます。
 無意識とは、抑圧された心的内容が存在している領域です。意識しようとしても意識できません。
 意識、前意識、無意識の間には検閲が働きます。検閲が働くことにより、無意識の心的内容がそのまま意識に到達することは妨げられます。
 意識にあったものを無意識に押し込めてしまう心の働きを抑圧といいます。
 逆に、無意識の心的内容が意識できるようになることを意識化といいます。意識化には故意的に行うものと偶発的に生じるものがあります。故意的に行うものの例が自由連想法などを用いた神経症の治療です。一方、偶発的に生じる意識化の例には失錯行為があります。
 失錯行為とは、言い間違いや度忘れなどのように、最初の意図が達成されないで、途中で意識しないうちに他の行為にとって代わられるものをいいます。失錯行為が生じる原因は、無意識的な願望や本能的衝動が、葛藤の結果、歪んだ形で意識化したからであるとフロイトは考えました。例えば、誰かの名前を呼び間違えたのは、その人の苗字が昔自分をいじめた人の苗字と似ているので、嫌な記憶を思い出すのを避けるために呼び間違えたのかもしれません。

無意識の概念がもたらした影響

 無意識という概念は、精神分析以外にも様々な分野に影響を与えました。
 哲学の分野では、構造主義を提唱したレヴィ・ストロースは精神分析に着想を得たと言われています。人間の心の深層に無意識を想定する精神分析は、レヴィ・ストロースが構造主義という思想に辿り着くのに重要な役割を果たしたのです。
 また芸術の方面でいえば、精神分析はシュルレアリスムの誕生に大きな影響を与えました。シュルレアリスムとは、「超現実主義」と訳される人間が意識によって捉えられる現実世界を超えたものを追及する芸術運動です。シュルレアリスムはフロイトの提唱した無意識の概念を背景として発展しました。

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