フェルディナン・ド・ソシュール

 フェルディナン・ド・ソシュールは、スイスの言語学者です。生涯で一冊の本も書きませんでしたが、その講義は『一般言語学講義』としてまとめられ、言語学に革命的な影響を与えました。

差異の体系

 差異の体系とは、ソシュールが提唱した言語観をいいます。
 彼は、実際の言語を成り立たせているものは、音や概念などではなく、差異であるとしました。まず言語による区別があって、次にモノの分類や認識があるのです。
 この言語観が革命的だったのは、伝統的な哲学における存在のあり方の考え方に影響を与えた点にあります。それまでの哲学では、本当に存在するものは何かという究極の問いに関して唯物論と観念論という二つの解釈がありました。唯物論では本当に存在するものとはモノであると考え、観念論では観念や理念だと考えられていました。
 しかし、ソシュールの言語観によれば、まず言語の中に存在するのは区別です。そしてこの区別は変動します。
 となると、人間の認識は、その人物がどのような差異の体系、つまりは言語に属しているかによって異なります。これは人間の理性は言語の影響を受けていることを意味します。
 また、それまでの哲学では存在があって異なる存在同士の関係があるとされてきました。しかし、ソシュールの言語観では、関係の区別があって存在の範囲が決まってきます。
 更に、どの言語がどういう差異を持つかは、文化的・歴史的に決まり、モノと言葉の結びつきには絶対的な理由はないことになります。
 以上のことにより、ソシュールの言語観は、伝統的な理性や存在について疑問を投げかけたのです。

通時言語学と共時言語学

 ソシュールは言語学を通時言語学と共時言語学の二つに分類しました。
 通時言語学とは、ソシュール以前の言語学をいいます。これは例えば、英語とドイツ語は同じ先祖から別れたというような言語の系統的分類の歴史などを指します。
 一方で、共時言語学とは、ソシュールが取った立場の言語学をいいます。共時言語学の出現により、言語とはそもそも何かという取り組みが可能になったのです。

パロールとラング

 言語にはあらゆることを語るために語彙や文法といったルールがあります。それがあるから、まだ現実的には語られてはいないことでも語ることが可能になります。
 ソシュールは、言語の本質とは人が語る個々の発言と、その発言を可能にする規則体系の複合だと考え、パロールとラングという概念を生み出します。
 パロールとは、現実に話されている個々の言葉をいいます。
一方でラングとは、共有されている言語のルールをいいます。
 ラングはパロールのように実在はしませんが、常に可能性として人間の心の底に隠れており、個々の言葉の意味を決めているのです。

シニフィアンとシニフィエ

 ソシュールは、ラングを記号(シーニュ)の体系であるとしまいた。
 彼は、記号とはシニフィアンとシニフィエが結びついたものだと規定しました。
 シニフィアンとは、例えば日本語の「イ・ヌ」という音の連鎖をいいます。
 一方でシニフィエとは、例えば「イヌ」という音のあらわす言葉の意味、すなわち概念をいいます。

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