ニーチェはドイツ生まれの哲学者です。元々は古典文献学の研究をしていましたが、やがて初期のギリシア哲学やショーペンハウアーらに影響を受け、独自の思想体系を生み出しました。
キリスト教の示す価値観を否定し、代わりに「力への意志」のせめぎ合いとしての生を肯定しました。
彼はアフォリズム(警句)という独特のスタイルで論文を書き、著作には『悲劇の誕生』『ツァラトゥストラはこう語った』などがあります。
ニヒリズム
ニヒリズムとは神などの宗教・道徳の最高の価値を信じられなくなった人間の生の態度をいいます。虚無主義とも訳されます。ニヒリズムは、自らニヒリズムを徹底させることを通じて、ニヒリズムの問題に取り組みました。
ただしニーチェにとってのニヒリズムとは、特定の状況を指し示した表現に留まりませんでした。ニーチェはプラトン以降の西洋形而上学全体の動向もニヒリズムと呼びました。
プラトンの考えによれば、この世界は現実界とイデア界に分かれており、イデア界に万物の理想の状態があるとされます。プラトンのイデアに始まり、キリスト教の神も、デカルト以降の理性も超自然的原理の別名に過ぎないとニーチェは説きます。
こうした原理は、人間の願望が外部に投影されただけで、現実に存在するわけではありません。結局として、ヨーロッパ文化は全体として、ありもしない無に向かって形成されたといえます。そして、この虚しさに気づき始めたところにニヒリズムの原因があるとしたのです。
ルサンチマン
ルサンチマンとは、貧者が自らを道徳において優性とみなす価値上の転倒意識をいいます。例えば、「自分は貧乏だが金は人間に不幸にするだけだ」「自分は恋人がいないが恋人がいたからといって幸せになれるとは限らない」などの妬みがルサンチマンです。
貧しく弱い者が善で、富める者や強者が悪という概念を作ったキリスト教こそが最大のルサンチマンだとニーチェはいいます。その上でこうしたルサンチマンが、人間の生命力を弱めてしまっているとしました。
神は死んだ
悲惨な目にあっている自分たちが道徳的に優れているとするために善悪は生まれ、善悪に最もらしい体裁を与えるために造られたのが神だとニーチェは説きます。その上で、善悪のメカニズムが明らかになった以上、神は必要ありません。こうして「神は死んだ」とニーチェは宣告しました。
永遠回帰
ニーチェは神を否定することによって、善悪をはじめとする価値をも否定しました。価値は存在しないのだから、昨日と比べて今日なにが変化しても改善なのか悪化なのかは判別できません。したがってすべては同じことの繰り返しです。これを永遠回帰といいます。
力への意志
永遠回帰が不服であっても、何が望ましいかという尺度がない以上は、現状を受け入れるしかありません。このとき見えてくるのが力への意志です。これはせめぎ合う力と力の抗争です。
ニーチェは力への意志が、生き物のみならず世界全体を貫いていると考えました。世界を超えた真理を否定するニーチェは、物質そのものに生きる力が備わっていると考えるべきとしました。あらゆる生命体には、自己保存の欲求と成長への欲求がそなわっています。そこには今ある状態よりも大きくなろうという意志の力があるだけで、イデアに近づこうとしている意識があるわけではないのです。
この思想はプラトン以前の自然観への回帰ともいえます。
図式化
動物は生きるために外界の状態を把握します。しかし正確な事実を把握する必要はなく、その生物が生きるのに足ることがわかればいいのです。世界を知ろうとする認識に対し、必要な情報のみを知ろうとすることをニーチェは図式化と呼びました。彼は、理性は本来、認識のためではなく図式化に必要だったとしました。