ヘラクレイトスは、イオニア学派とピタゴラス学派の両方の影響を受けた自然哲学者です。
エフェソス市で最も古い王族の生まれともいわれています。しかし、非常に気性の激しかった人のようで、人里離れたところで山ごもりをしながら生きたとも伝えられています。
著書といわれる『自然について』は現存せず、引用によってのみ断片が伝わっています。この書は『万有について』『政治について』『神学について』の三書を総合したものであるともいわれています。
脈略のない格言風の散文で抱えれたその哲学は、難解で謎めいていたため、当時は「闇の人・謎をかける人」とも呼ばれていました。
彼の唱えた「万物流転の法則」は、後に弟子のクラテュロスを通じて、プラトンにも大きな影響を与え、ヘレニズム時代にはストア学派の祖として評価されることになりました。また、ヘーゲルなどの思想の源流として、弁証法の始まりを担う人としても考えられています。
万物流転の法則
アナクシマンドロスが「無限なるものの不変性こそが万物の原理」と唱えたのに対し、ヘラクレイトスは「世界とは、対立しあうものが闘争と和解を繰り返している過程である」と考えました。そのさまをヘラクレイトスは象徴的に火と表現しました。つまり、彼は万物の根源であるアルケーを火であるとしたのです。
万物は生成と消滅を繰り返しながら、万物は流転しています。しかし、ヘラクレイトスの考えでは、いつも生きている火を一定量だけ燃え、一定量だけ消えるため、世界は安定しているとされます。
同じ川には二度入れない
ヘラクレイトスは「同じ川には二度入れない」という有名な言葉を残しています。
世界の一切のものは流れる川のように常に変化しています。一瞬たりとも同じままでいることはありません。これが「同じ川には二度入れない」という言葉の意味です。
世界に存在するものは、なにかの消滅がその対立物の生成を生み出すという具合に、一切が相互循環しています。この過程をヘラクレイトスは、「下りの道」と「上りの道」とも呼んでいます。このような無限の往復過程こそが万物流転です。
このことを永遠の法則(ロゴス)とわきまえて、それに従って生きる術を身につけるのが肝要だとヘラクレイトスは説きました。