テオドール・アドルノ

 テオドール・アドルノは、ドイツの哲学者・社会学者であり、フランクフルト学派を代表する思想家の一人です。
 ホルクハイマーと共に、道具的理性についての批判的理論を展開しました。
 また彼は、ナチスに協力した一般人の心理的傾向を研究し、権威主義的パーソナリティについて解明した。権威主義的態度を測定するためのファシズムスケールを開発者しました。
 主な著作には、『近代哲学・啓蒙主義の自己批判』『哲学のアクチュアリティ』や、ホルクハイマーとの共著である『啓蒙の弁証法』などがあります。

ミメーシス

 ミメーシスとは、西洋における哲学・美学上の概念です。〈模倣〉と訳されます。この概念の由来は、プラトン哲学の自然界の個物はイデアの模像であるというものです。アリストテレスは、プラトンのこの概念を引き継ぎ発展させました。アリストテレスによれば、芸術は模倣の模倣で、模倣こそ人間本来の性情から生じるものであり、全ての芸術は模倣の様式であるとしました。
 ミメーシスは、主体が対象を経験する際の根底をなすものです。ミノーシスがあるからこそ人間は、非同一的なものを概念化しないで、未知のものを未知のものとして経験し表現できます。
 アドルノは理性の野蛮を克服しうる可能性を、哲学の推進力でもある自己省察の力とミメーシスの能力に見出そうとしました。

否定弁証法

 アドルノは、啓蒙が野蛮なものとなるのは、主観による客観の支配が原因であると考えました。
 アドルノは、ヘーゲルの弁証法を継承しながら、弁証法の方法を拒みました。
 ヘーゲルの弁証法では、主観的なものと客観的なものとは相互に否定しあうとされています。しかし、ヘーゲルの「主観―客観」は実は主観に過ぎないとアドルノは指摘しました。なぜならば、ヘーゲル哲学は観念論的なもの(つまりは主観)を優位とする哲学だからです。
 ヘーゲルの「主観―客観」の弁証法は、主観である精神が全体をなしています。アドルノは、ヘーゲルのように全体性を把握できると主張する哲学の排除に努めました。ヘーゲル哲学では物事の全体がどうでるかが取りざたされます。一方で、個人はほどんどないに等しい仕打ちを受けているとアドルノは批判しました。
 その上で唱えたのが否定弁証法です。ヘーゲルの弁証法では肯定的な命題を否定する「否定の命題」を出し、その「否定の命題」を否定して命題を統合していきます。一方で否定的弁証法では、最初の「否定の命題」にあえて留り、概念の同一化作用を拒絶します。これは限定的否定と呼ばれ、否定的弁証法の最大の特徴です。アドルノは否定弁証法における限定的否定を用い、「個々の違いがあるもの(現実世界の人間やモノ)」を概念化して支配・操作することを拒絶しました。

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