阿闍世コンプレックス (Ajase complex)

 古代インドの阿闍世王子の物語を下敷きにし、古澤平作が提唱し、小此木啓吾が広く流布させた精神分析の概念です。
 子どもが抱く未生怨(出生の由来を知ったことから発生する、子どもの母親への恨み)を意味します。
 母親は親であると同時に妻でもある存在です。子どもは自分の誕生の由来が母親の性の産物であると知り、母親を恨むようになるというのです。

阿闍世コンプレックスと超自我

 阿闍世コンプレックスは以下の心的過程を経て、子どもの超自我を形成します。
①母親を恨んだ子どもが母親に許されないような悪い行為(憎悪や攻撃)をする。
②子どもの予想を超えた寛容や愛情によって、母親が子どもの罪を許す。
③子どもの内面に「申し訳ない」とうい自罰感情(後悔・謝罪・反省)が情緒的葛藤を作り出す。
④自己懲罰感情が、社会規範を内面化した超自我の起源となる。

S.フロイトのエディプス・コンプレックスとの違い

 フロイトのエディプス・コンプレックスは西洋文明社会とモデルに形成された概念です。
 西洋文明文化は、父性原理に基づくキリスト教倫理とヨーロッパ社会の伝統文化に大きく影響を受けています。
 厳格な父性により、密着した母子関係の切断が心理的自立を達成するとフロイトは考えました。
 そうなると、母性原理の宗教や伝統の根強い日本社会では、父性原理を前提としたエディプス・コンプレックスの発達概念をそのまま適応させることが難しくなります。
 そこで古澤平作と小此木啓吾は日本人固有の概念として阿闍世コンプレックスを提唱したのです。

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