事例研究とは、1つの事例または少数の事例を取り上げ、各事例の個性を尊重し、研究していく方法です。質的研究の一つです。
事例研究では、扱う事例についての詳細に情報収集を行い、その事例の特徴や変化についてを分析・評価します。
事例研究は、事例から得られた知見を臨床的・学術的に生かしていくために行われます。
事例研究では研究する事例の対象が、どのような環境で生きているのか全体的に把握することができます。それにより、対象がどのように生きてきたのかを理解できます。また、個人が取る行動の間にある様々な要因、構造を明らかにすることもできます。
なお、選択する事例は心理療法の対象になる事例のみにとどまりません。援助を行った組織・機関の活動を研究対象にすることも可能です
事例研究の意義
事例研究を行う意義には以下のものなどがあります。
- 特殊な事例、症状、現象、それらへの対応方法を知ることができる
- 新しい治療法の発見に繋がる可能性がある
- それまでの理論や枠組みの見直しにもつながる可能性がある
- 現在進行中の事例では、スーパービジョンとしての役割がある
- 今後の指針の参考にできる
- 初学者の治療者の教育・訓練に役立つ
事例研究の方法
事例研究を行うにあたっては、一般的に以下の手順を踏んでいきます。
①なぜ、その事例を選択したかを明確にする
②様々な方法を用いて、多様なデータを収集する
③事例から生じる文脈や背景を詳細に記述する
④表現したデータから新たな理論モデルを構成する
⑤構成した理論モデルの意味と役割を示すストーリーを作成する
事例研究の種類
会話記述式事例研究
心理療法やカウンセリングで行われる会話に注目し、そのコミュニケーション過程を記述・分析します。
過程記述型事例研究
援助者と相談者とのコミュニケーションが時間経過とともに、繰り返されることで新たな出来事が生じ、臨床過程は展開します。過程記述型事例研究では、それらの臨床過程を記述し、分析します。
ナラティブ記述型事例研究
ナラティブとはストーリーや物語という意味を持つ言葉です。ナラティブ記述型事例研究では、対象者の過去にどのように生きてきたかを考察、その人が生きている現実を描き出すことを目的とします。
フィールド記述型事例研究
フィールドとは、調べようとしている出来事が起きている現場を意味する言葉です。
フィールド記述型研究とは、事例の背景にある社会的現実に介入し、改善していく過程を実践する過程を記述・分析したものです。
事例研究の問題
事例研究では、1つの事例または少数の事例を取り上げます。そのため、以下のような科学性が疑問視されます。
客観性
事例研究は発表者の主導型の研究といわれます。そのため、いかに主観的な部分をなくすかが重要となります。
再現可能性
科学とは何度も生じる現象に関して有効であり、一回しか起きないことに関しては科学は無力であるといわれます。事例研究は極少数の事例をテーマに扱うため、科学的に扱うことが困難となります。
普遍性
事例研究は特殊な事例を取り扱うため、普遍的な理論やモデルを構築することが困難です。