1つの事例に基づく実験の方法です。
多くの被験者を集めることが困難な場合や、集団の平均値では消されてしまう個人の変化を測定する場合に有効です。
反転法
基本的な一事例実験はベースライン期と処遇期によって構成されます。
ベースライン期とは、介入を行わない期間です。
処遇期は実験的介入を行う期間です。
反転法ではベースライン期と処遇期を一定期間ずつ繰り返し行い、介入の効果を比較します。
よく用いられる反転法には、以下のものがあります。
ABデザイン
ここでいうAとはベースライン期のことで、Bとは処遇期を指します。
ベースライン期での結果を測定した後に介入を行うだけのシンプルな構成です。
しかし、この方法には以下のような問題点があります。
- 介入開始後に想定外の出来事が影響を与えていたとしても確認できない
- 単純な時間経過による変化、成熟による変化などと区別できない
以上のことからみると、AB デザインは、介入の効果を検証する手段としては欠陥があると指摘されています。
ABAデサイン
ベースライン期を経て実験的介入を行った後に、介入を中断し効果を比較する方法です。
この方法を行い、実験的介入後に効果が見られ、かつ介入を中断した場合に効果が消えた場合には実験的介入は効果があったといえます。
しかし、この方法は、介入の効果が見られた場合にも、効果のある介入法を中断します。この点から倫理的道徳的な問題があると指摘されています。
ABABデザイン
ベースライン期を経て実験的介入を行った後に、介入を中断し再びベースライン期に戻した後に、改めて実験的介入を行う方法です。
ABAデザインに比べて倫理的道徳的問題が少ないとされます。
多重ベースデザイン法
反転法におけるABデザインを、複数の被験者、複数の状況、異なる複数種類の行動などを対象に、介入の時期をずらして実施する方法です。
複数の被験者で行うなら被験者間多重ベースライン、複数の状況を設定するなら状況間多重ベースライン、複数の行動を比較するなら行動間多重ベースライン、と呼ばれます。
1人の被験者にABデザインを実施した場合、処遇期がベースライン期の結果を上回ったからといって効果あるとは断言できません。なぜなら、時間経過や成熟いより症状が改善した場合と区別がつかないからです。
しかし、複数のABデザインをずらして実施し、ずらした時点から変化が現れたなら、介入の効果が出ているという可能性が高くなります。
この方法は、2回目のベースライン期を挿入して、改善効果の停滞・消滅が避けられるのが長所です。
一事例実験のデータ評価について
一事例実験のデータ評価では、ベースライン期と処遇期の結果をグラフ化し、目で見て効果の有無を判定する場合がほとんどです。
しかし、目で見て判断すると方法には客観性がないという批判があります。
こうした批判に対して、一事例データの評価のための統計的方法も開発されています。その方法には、時系列分析やランダマイゼーション検定などがあります。