トマス・アクィナスは、スコラ哲学を代表的な人物です。ナポリ郊外で生まれ、大学で学んだ後にドミニコ托鉢修道会に入会しました。アルベルトゥス・マグヌスと出会い、弟子となります。
トマス・アクィナスは、アリストテレス哲学とキリスト教の教義を融合しました。著書には主書である『神学大全』のほか『真理論』や『有と本質』などがあります。ただし、『神学大全』は、聖ニコラウスの日に行われたミサの途中に神秘的出来事を体験したのをきっかけに著述活動を放棄したため、未完のまま終わっています。
トマス・アクィナスの考えた世界の階層
トマス・アクヴィナスが生きた時代に、十字軍の遠征の影響で、イスラム文化がヨーロッパに入り込んできました。それにより、当時のイスラム圏に広まっていたアリストテレス哲学とキリスト教の教義の両方の折り合いをつける必要が生じていました。トマスはこの問題について最大の功績を上げた人物であるとされます。
トマス・アククィナスは、アリストテレス哲学を認めつつも、キリスト教の教義はアリストテレス哲学が扱える範囲を超えた部分を説明するものとしました。
トマスによれば、アリストテレス哲学では、人間は理性を用いて哲学的に真理を獲得しようとしているといいます。よって、アリストテレス哲学は理性が及ぶ範囲では最良の指針であるとしました。
一方で、理性を超えた範囲である神による啓示などの問題はキリスト教固有の領域であるとしました。つまり、神や死後の魂といった問題についての説明はキリスト教の教義を当てはめるのが最良としたのです。
トマスの考え方は最初こそローマ教会に異端の嫌疑をかけられました。しかし、アウグスティヌスの唱えた「神の国」(つまり教会)を指導原理として捉え直す可能性を持っていました。結局として、ローマ教会は、世俗的支配を支える理論的根拠として、トマスの考え方を公認しました。
存在の類比
トマス・アクィナスは、それまでキリスト教の中心である神そのものについてどう考えればよいかについても提案しました。
トマスは、存在することが神の本質であると唱えました。
通常の個物では本質と存在は区別して考えられます。しかし、神は存在と本質が一体化しているとトマスはいうのです。こうなると、通常の個物における「存在」と神における「存在」という言葉は似て非なるものということになります。つまり、説明のために一応「存在」という言葉は使っているけれど、これは類比(要するに物の例え)なのです。これを存在の類比といいます。